トップ 小説 自己紹介 掲示板 リンク メールマガジン

十一話


「勇孝、どうした・・・・・・。元気ねえな。」
「ああ、昨日の事故のことを考えててさ。」
勇孝は、近くに真奈美がいるのを意識して、詳しい話はしたくなかった。真奈美は、自分のことを気にしてくれているだろうし、話を聞いているだろうと思っていた。
「えっ、何の事故。」
太一は、驚きながら言った。
「実は昨日さ、勇孝が子犬を轢いちまったんだ。」
雄也が、勇孝の代わりに答えた。
「ほんとに、それで子犬は。」
太一は、身を乗り出して聴いている。
「うん、幸い命に別状はなかったんだけど・・・・・・。骨折になっちゃって病院で安静にしてる。」
「そうか、そんなことがあったんか。」
太一は、彼らにそんな大変なことがあって、自分の知らない所で何でもお互いに話し合っていることに嫉妬した。二人のように、信頼できる友が欲しかったのだ。また、自分も二人の間に入って、友情を深めていきたいと思っていた。
真奈美は話を聴いていて、とても勇孝を心配していた。子犬のことが気になって仕方がなくて、勇孝に話しかけた。
「安永君、子犬には飼い主いるの。」
「それが昨日探したんだけど、なかなか見つかんなくて困ってんだ。」
「そう、どうやって探したの。」
真奈美は、勇孝と久々に話をしている自分に気がついていないほど真剣に話しをしていた。動物を愛護するという精神が、そうさせていた。真奈美の綺麗な瞳は、生まれたばかりの赤ん坊のように清らかだ。
「ああ、俺も一緒に探したんだ。桜並木の坂で事故に遭ったんだけど、その辺りの家を一軒一軒歩き回ったんだ。」
雄也が、昨日の事故を思い出しながら話した。
「でも、全然見つかんなくて。」
勇孝が残念そうに言いながら、拳を握り締めた。彼は、自分の不甲斐なさに腹が立った。
「俺も今度探してあげるからよ。」
太一は親切心から言ったのではなく、一緒に彼らと行動を共にしたくて発言した。
「おう、助かるよ。」
勇孝は、太一の嫉妬心を知ることもなく感謝していた。
真奈美も太一の発言を耳にして、何か勇孝の為に出来る事はないのかと、純粋にそう思っていた。
いろいろな人間の想いが交錯し、勇孝にとって退屈な時間が訪れようとしていた。


10話 12話




アクセス解析 SEO/SEO対策