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十二話


勇孝が窓際の席で壁に寄りかかりながら座っていると、耳障りな音が鳴る前に担任の三井が教室のドアを威勢よく開けた。すると今までざわついていた空気が一気に静まり返った。三井は常に、ズボンのホケットに手を入れながら歩いている。今も、右手をポケットに入れたままドアを開けた。
三井は黙っているだけで威圧感があり近寄りがたく、初対面の人などは彼の顔を見ただけで恐れをなしてしまって、まともに顔を見上げることができずにうつむいてしまう。気の弱い生徒達は彼の目を一度も見た事がないという者までいるほどである。
日直が小さい声で「起立、礼、着席」と言うと、三井は面白くない顔をした。
「教科書の百八十三ページ。」
三井は頭を下げて礼もしないで、ぶっきらぼうに言い放った。生徒達は彼の機嫌が悪いことを瞬時に察知し、更に教室が静まり返り誰かが咳き込む音が響くほどであった。
勇孝は三井を恐れていた。言葉の端々からは自分を憎んでいるとも取れるときがあり、三井の発言は勇孝の頬の筋肉までも収縮させてしまうことさえあった。
勇孝は、学校の先生という人種が大嫌いであった。特に担任の三井は他の生徒からも嫌われていて、彼にとって大人の中でも一番嫌いな人間であった。
勇孝は悪い生徒ではないが、自分が納得出来ないことがあると、たとえそれが担任の三井であろうと反抗する。そんな反抗的な態度が、三井には気に入らないのである。勇孝は、常に信念を持って行動し発言をしていたため、三井と度々衝突した。
「今日のホームルームは来週の三者面談があるから、一人ずつ進路について話をしたいと思う。」
三井が一方的に喋ると、クラスがざわつき始めた。
「静かにしろ。お前らのことだろうが。もっと真剣に考えろ。」
三井は、顔を真っ赤にしながら一喝した。
「先生、今日のホームルームは席替えをするって言ってたじゃないっすか。いきなり変更するなんて卑怯だよ。卑怯極まりないね。」
教室の一番後ろで、椅子にもたれかかるように座っている田村周平が、不満をぶつけた。周平は、学校で五本の指に入るほど背が高く、腕っ節の強い少年であった。
「黙れ、田村。なんだその口の利き方は。先生に向かって話す言葉じゃないだろうが。」
「先生、1学期始まってから、まだ一回も席替えしてないんですよ。そろそろ席替えしたいとみんなも待ち望んでます。」
傍観していた勇孝が、彼らの会話に割って入った。彼は、周平を助けたつもりであった。
「黙れ、お前ら。進路のことについて話を聞くって言ってんだから、席替えは絶対にしないんだ。」


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