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十三話


「でも、先生。」
「なんだ、まだ文句あんのか。」
三井は、二人を睨みつけた。
周平は、条件反射でとっさに目をそらした。以前三井に、口答えをした時にぼこぼこに殴られたことがあったからだ。しかし、勇孝は自分の気持ちに正直にありすぎた。彼は、三井以上に睨み返した.
「安永、その目つきはなんのつもりだ。」
今にも三井は、手を出しそうな勢いである。
「俺らは、間違ったことを言ってません。先生が言ってる方こそおかしいんじゃないんですか。」
「勇孝、もうめやろ。」
太一は知らん振りを決め込んでいたが、これ以上三井に逆らうと、とんでもないことになると思い止めに入った。
しかし、太一が止めに入ったと同時に、三井は完全に教師というのを忘れてきれてしまい、勇孝の胸倉を掴むと、持ち上げて床に叩き付けた。勇孝が立ち上がると、顔をおもいっきり殴りつけた。三井の顔は正に鬼の形相で、聖職者とはとても見えない顔に変貌している。女子生徒達からは悲鳴があがり、その教室は修羅場と化した。
勇孝の口からは血が噴き出し、抵抗しようにも大人には全く勝ち目がなく、されるがままになってしまっていた。勇孝を殴る三井だけが絶対的な支配者となり、さらに生徒達から信頼されない大人になってしまっていた。
勇孝は、薄れゆく意識の中で真奈美をふと見ると、必死に自分を助けようとしていた。
「勇孝君を助けて。」
日頃、真奈美は「安永君。」と呼んでいたが、この時ばかりはそんなことも忘れて叫んだ。
あっけにとられて立ち尽くしていた周平や雄也、体の大きな生徒達が真奈美の切実な願いで我に返り、体を張って止めに入った。
真奈美の言霊が勇孝を救出し、最悪の結果にならずにすんだ。
「大丈夫。」
真奈美は勇孝の頭を膝に乗せると、透き通るような瞳から一粒の涙が勇孝の頬にこぼれ落ちた.
「濱崎君、保健室に運ぶの手伝って。」
雄也は、声ひとつ発さない勇孝を抱えた。
「ああ。周平、そっちの肩持ってくれ。」
周平もすぐに駆け寄り、勇孝の顔を覗き込んだ。勇孝は遠くを見つめるような顔をしていたが、その表情からは悔しさは伝わってこない。
真奈美達が勇孝を心配しているのをよそに、暴力教師はただ呆然と立ち尽くしていた。


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