十四話三井はその時、勇孝のことを考えていたのではなく、自分の立場を気にしていた。これだけ生徒に暴力を振るったのだから、父兄から抗議がくるかもしれない。学校側から処分が下るかもしれないと、自分自身のことだけしか考えていなかった。 「先生、生徒にこんなに暴力を振るっていいと思ってるんですか。教師の体罰は許されてません。こんなに怪我させて・・・・・・。」 暴力教師に学級委員の中井智実が、そのか細い体で恐れずに声を張り上げた。最後の言葉は震えていた。智実は、勇孝が意識を失うほど殴られた後に、声を出すのは怖かったのだ。 そして勇孝は彼らに抱きかかえられ、やっとの思いで保健室のベッドに横になった。 「目の下が腫れてるわね。口の中は切れてるの。」 養護教諭の岸谷が、勇孝の口元に目をやりながら言った。 「三井の奴、絶対許さねえ。」 周平は、日頃から三井に対して敵意を剥き出しにしていた。 「先生、こんな暴力が許されていいんですか。」 雄也が、口をへの字に曲げて言った。 「三井先生のしたことは、教師としてあるまじき行為だわ。」 岸谷は言っていることとは違い、表情を変えていない。 勇孝は、保健室のベッドに大の字で寝ている。 以前にも、三井に暴力を振るわれて軽い傷を負ったことがあったが、今回ほど精神的にもひどく傷を負ってはいなかった。肉体的な傷よりも精神的な面で傷ついていた。 「みんな、心配ばかりかけて悪いな。」 岸谷が三井を批判した後、今まで押し黙っていた勇孝が口を開いた。 「そんなことより、怪我は大丈夫か。」 雄也は、勇孝の目を見つめながら言った。 「たいしたことないよ。あんな奴に殴られたって。」 勇孝は皆の手前強がっているが、周りに誰もいなかったら声を上げて泣き出しているほど、ガラスの心は粉々に砕かれていた。 岸谷は、強がる勇孝を抱き締めたくなった。青春時代の甘い思い出を彼らに重ね合わせ胸がキュンとしていた。辛いことも大人になれば懐かしく思える。岸谷は、客観的に彼らを見ていた。 「俺達校長に、今から抗議しに行きます。」 周平が、怒りに震えながら言った。 「えっ。」 岸谷は、驚きのあまり顔が前に出た。 「ちょっと待って、いきなり校長室に行くのは無理だわ。」 「だって、こんなに暴力を振るられたのに黙ってらんないっすよ、先生。」 |
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