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十八話


「そうか、この香りは俺の大好きな匂いだ。あの人の髪の香りだ。どんな暗闇でもたとえ世界が終わったとしても忘れてはいけないものだ。なぜなら、俺の大切な人、真奈美の香りだったんだ。」

「勇孝君、勇孝君、どうしたの。目を覚まして。お願い・・・・・・。」
真奈美の涙でかすれた声が、はっきりと聞き取れた。
勇孝はゆっくりと目を開けた。先程までは誰もいなかったのに、この世界では自分を中心にして取り囲んでいる。真っ先に真奈美を見て、勇孝はやっと安心した。なぜなら、もしかして真奈美は、もうこの世界にはいないのではないかと、不思議とそう思ってしまったからである。
勇孝は、真奈美の香りと声のおかげで目を覚ませた。
「勇孝、なんだ眠ってたのか。話しかけても全然起きないからさ。何かあったんじゃないかと心配したぞ。」
周平は、少しほっとしていた。
「頭でもぶつけて、どうにかなっちゃたんじゃないだろうな。」
周平の隣にいる雄也は、まだ心配していた。
「ああ、大丈夫だよ。ちょっと眠ってただけだよ。昨日、あまり眠れなかったからさ。」
勇孝は口ではそういったものの、内心は本当に自分は夢の中にいただけなのだろうかと不思議に思っていた。夢にしては、目が覚めても鮮明な映像が残っているし、あの鮮やかな小鳥が気になって頭から離れなかった。
椅子に深く腰を掛けている岸谷は、声を低くして勇孝に質問した。
「安永君、大丈夫なの。三井先生に殴られた時に頭は強く打ってない。」
岸谷は養護教諭として、詳しく知っておく必要があった。
「はい、大丈夫です。なんでもないです。ただ眠くて・・・・・・。いつのまにか眠ってたみたいです。」
勇孝は、なぜ眠ってしまったのか分からなかったが一応そう答えた。
「そう、ならいいんだけど。」
「でもさあ、ずいぶん寝てたよな。」
周平は、勇孝が三井にあれだけ酷く殴られた後だっただけに、だんだん心配になってきてしまった 。
「うん、大体10分ぐらいは起きなかったから、気を失ったんだと思ってたよ。」
雄也も、三井の暴力の酷さを体感した経験があったので、怪我の具合が心配であった。
「みんな、心配かけて悪かった。でも、もう大丈夫。俺はもうこんなふうにはなんない。奴に暴力を振るわせない。俺自身にも、雄也と周平、クラスの友達にも絶対にこんな目には合わせない。あいつだけは絶対許さない。」


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