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十九話


「安永君、三井先生にも考えがあってしたことなのかもしれないし、あまり先生に逆らったりしない方がいいわ。」
岸谷は、勇孝の悔しがっている姿を見て諭そうとしていた。
「奴には考えなんてものは、なんもありませんよ。あいつはただ単に、感情だけで動いたんです。生徒のことを真剣に考えてくれるセン公なんていやしないんだ。」
勇孝は、頭に血が上ってしまった。
勇孝のあまりにも強い口調に、岸谷は黙り込んでしまった。
「確かに勇孝の言うとおりさ。俺たちのことを真剣に考えてくれてる大人はいない。自分のことしか考えてないんだ。結局、教師だって自分が一番かわいいのさ」
雄也は、勇孝の意見に同感であった。
岸谷は、彼らの学校生活が悲惨なものであることを、今になってようやく分かった。岸谷は一人の大人という立場でありながら、彼らに対して親身になって接しているのだろうかと、胸を張って言える自信は何一つなかった。
勇孝は、岸谷がこれだけ言われて、何も反論してこないので失望した。岸谷先生もやはり、生徒の事を何も考えてはくれないし、他の教師達と同じだと発言しようとしたが、彼女の悲痛な面持ちを目の辺りにして、とても口には出来なかった。勇孝は今にも爆発しそうな怒りを必死に心の奥底に封じ込めようとしていた。
真奈美は、遠巻きに彼らのやり取りを聞いていた。彼女の笑顔はとても優しくて美しいが、それは普段は笑わなく表情を悟らせないポーカーフェイスだから際立つのであった。目鼻立ちのはっきりとした美しい顔は、いつものポーカーフェイスに戻っていた。
教室では、暴力事件が起きただけに、あまり口を聞くものはいなかった。
それでも、ひそひそと話しをする者も中にはいたが、勇孝の怪我の具合が気になっていたので、その空間は静寂に包まれていた。
「なあ、勇孝大丈夫かな。あいつちょっと言いすぎだぜ。」
太一は、勇孝がいないのをいいことに批判していた。
隣に静かに座っていた優里は、太一をキッと睨んだ。
「なに言ってるのよ。安永君は私達の意見を言っただけよ。安永君の意見は正論だし、先生のしたことの方が間違ってるじゃない。」
優里は、勇孝と太一は友達なはずなのに、なぜ太一は、勇孝の肩を持たないのかと理解に苦しんだ。勇孝に付き添っている真奈美が早く教室に戻ってきて、彼の容態を説明して欲しいと太一に言おうとしたが、太一に話しても腹が立つので前にいる秋子に話しかけた。
「真奈美、早く帰ってこないかなあ、ねえ秋子。」
「うん、なかなか来ないね。」 秋子は、三井に聞かれてはいやしないかとひやひやしていたため、なるべく誰とも話さないようにしていたが、優里に後ろから肩をトンと叩かれた時は、面倒なことに巻き込まれたとまで思っていた。


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