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二十一話


勇孝の発言はまずこの教室の空気を入れ替えて、有利な方向へ話を持っていくことから始まった。とりあえずこの場は謝っておいて、三井に対して敵意はもうないと思わせておく。それから、奴を奈落の底へと陥れる。勇孝の心は、憎悪でどす黒く染まっていった。
「みんな、こんな騒ぎになっちゃってごめん。全部俺の責任です。先生は俺のことを親身になって考えてくれてます。」
勇孝はきっぱりと言い切った、心にもないことを。
雄也と周平は驚いていた。保健室では、あれだけ悔しがり三井を罵ったはずなのに、勇孝のうっすらと紅をさしたかのような口から出てくる言葉は、想像していたものとはまるで違っていた。勇孝の事だから、また三井と騒動を巻き起こすのではないかと思い、わざと廊下で明るく振舞っていた。そのかいあってか、揉め事も起こらずに済みそうで、彼らの目には勇孝は模範的な一生徒に変わったように見えた。
そんな彼らの考えを覆した勇孝は、刑務所に入れられた模範囚の様になっていった。
「席替えを主張したのは、自分のわがままでした。先生の意見は紛れもなく正しいです。三者面談が控えてるから、俺達のことを考えて予行練習してくれようとしてたのに、席替えをして欲しいなんて勝手なことばかり言って・・・・・・。たいへん大人気ないと思ってます。」
勇孝の意見に賛同するものは、たった一人の人間しかいなかった。その人物は雄也でも周平でもない、ましてや真奈美でもない。生徒の中には誰一人うなずく者はいない。その意見に感心する人間は三年四組の担任である三井だけであった。
「そうか、安永は頭がいいな。偉いな。このホームルームの時間は、三者面談の練習のために使うべきなんだ。お前たちの将来がかかっているんだから、有意義に使うべきなんだ。席替えなんていつでもできるじゃないか、なあ安永。」
勇孝は、三井が生徒達の反感をかうことを望んでいた。そして、自分に不信を懐かせることも怠らなかった。
三井の発言に、納得している人間は一人しかいない。その人物は、廊下で未来を予測していた勇孝である。
勇孝以外の生徒は、三井のいつでも席替えが出来るという言葉を聞いて、怒りを憶えない訳はなかった。一学期始まって以来、一度も席替えをしていないという事実を忘れずにいた生徒達は怒りが爆発寸前で、これ以上三井と勇孝の話を聞いているのは苦痛以外のなにものでもないため、ついに不満の声が誰ともなく沸きあがった。三井の発言にプラスアルファで、勇孝の計算された謝罪の言葉がクラスメイト達の憤怒を呼び起こさせた。
  「何だよ、勇孝、怖気付いたのか、お前らしくもない。先生に体罰を受けて急に掌返しやがって。何のつもりなんだよ、いったい。」



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