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三話


「そうだな。」
「子犬のポスターでも作って、電信柱に貼ってみるとか。」
「うん、ポスターか。」
勇孝は、雄也の意見に頷くだけしか出来ず、いい考えが浮かばないでいた。
「じゃあ、今から坂に戻って近所の人に聞いてみようよ。」
勇孝は、飼い主の人の気持ちと子犬のことを考え、早く行動を起こしたかった。
「そうだな。早く飼い主を見つけなくちゃな。」
二人は自転車にまたがり、自ら起こした事故現場へと向かった。
腕時計の針は丁度六時をさしていたが、二人にはそれどころではなかった。
勇孝の家では、母親の紗季が夕飯の支度をしていた。
「今日はお兄ちゃん遅いわねえ。」
紗季が呟いている。
弟の清志はテレビゲームに夢中で、紗季が聞こえるような独り言を言っても気が付かないでいた。
清志は小学四年生で、学校ではテレビゲームが主な話題となっていた。彼にとっては、兄が遅いことなどどうでもよいのである。
清志は、紗季の顔をチラッと見た。
「清志、お父さん帰って来る前に、早くお風呂に入りな。」
父親の雅浩が帰って来るのは、いつも七時過ぎである。まだ、七時までには相当時間がある。結局、紗季は清志に八つ当たりをしていたのだ。
しかし、清志は何とも思っていなかった。紗季は、よく清志に当たっていたからだ。紗季は感情の起伏が激しく、自分の機嫌次第で怒ることがあった。
勇孝と雄也は、坂のあたりの家を手分けして探し回っていた。十五歳の少年には、お互いに別れて飼い主を探すのは大変心細かったが、その気持ちよりも子犬を想う気持ちの方が勝っていた。
彼らがチャイムを鳴らすと、セールスマンと同じようにあしらわれた。 ほとんどの家では夕食の用意をしていたので、面倒くさそうに玄関を開ける。
「はーい。」
「こんばんは・・・・・・。」
「すいません、あのー・・・・・・。今日この近くで子犬を轢いてしまって、飼い主を探してます 生後半年ぐらいで真っ白い子犬です。」
勇孝は、額に滲んだ汗など気にせずに言った。
「ごめんなさい、知らないわ。」
大抵の人はこういう時は知らん顔をする。例え事情を知っていたとしても、面倒な事には巻き込まれたくないのだ。
勇孝は、足が棒のようになっていた。しかし、どんなに冷たくあしらわれてもめげなかった。


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