五話「いえ、全然偉くないです。勇孝には借りがありますから。」 雄也は、決心を固め気持ちを引き締めた。 辺りは、オレンジ色の街灯が目立つ程に暗闇に包まれている。風が吹き抜けていき、公園のブランコが二つ並んで小刻みに寂しく揺れていた。 時計を見るといつのまにか約束の七時を過ぎていたので、勇孝は合流地点の公園へ急いだ。 ブランコの前にあるベンチには、雄也と知らないおじさんが親しそうに話していた。 勇孝は、彼らの所へ駆け寄った。 「雄也、どうだった。」 勇孝は、何の手がかりも得られなかったが、雄也なら何かしら情報を得たのではないかと期待していた。雄也の表情を見ると、少し晴れやかな顔をしていたからである。 「全然、だめだった。勇孝は。」 勇孝の予想に反して、返ってきた返事は期待はずれであった。それに、雄也の隣に座っている人は誰なのかと疑問に思っていた。 勇孝がそのおじさんに軽く会釈をすると、おじさんも頭を下げた。 「今日は、大変だったね。」 おじさんは雄也から詳しく話を聴いていたので、勇孝を大変心配していた。 「雄也から聞いたんですか。」 「ええ、だいたいの話は聴いたんだけど、私には子犬の飼い主が誰なのかはちょっと分からないな。」 そのおじさんは、本当に親身になって彼らのことを心配していたので、申し訳なさしそうに言った。 「おじさんはこの辺りに住んでるそうなんだ。だから飼い主を知ってるんじゃないかと思って、今日子犬を轢いちゃったことを詳しく話したんだ。」 雄也は勇孝に、おじさんと話した内容を説明した。 「そうか、やっぱり犬を飼ってる人に聞いてみるのが一番いいかもしんないな。」 「私は犬を飼って間もないから、この辺りで犬を飼ってる人は知らないんだ。申し訳ない。」 「いえ、とんでもないです。」 勇孝は、こんなに親身になってくれる大人に初めて出会った。 「おじさんには、話を聞いてもらっただけでもよかったです。」 雄也は親身に話を聞いてもらい、気持ちが楽になっていた。 彼らの周りにいる大人達は、いつも自分のことしか考えていない。学校の教師も例外ではなかった。 だから、いままで出会った大人と違うおじさんにはすぐに打ち解けて、いつもなら大人を警戒して信じていないのに、心を開いて話をしていたのだ。 |
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