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六話


また、子犬のこれからが心配で不安で堪らなかったのもあった。こんなことがなかったら、父親の世代の人と話すことは決してなかっただろう。
「何の力にもなれなかった。」
おじさんは、残念そうに言った。
「そうだ、私はいつも会社が終わってから犬の散歩をするんだけど、朝は妻がしている。妻だったら、近所の人がどんな犬を飼ってるのか知ってるかもしれない。今晩家に帰ったら聞いてみるよ。」
勇孝と雄也は、何件も知らない家を回ってみて、何も手がかりを得られなかった。これから先どうしたら飼い主が見つかるのか見当がつかなかった。そんな二人に、一筋の光明が射し込んできた、
「本当ですか。すいません、なんか迷惑ばかりかけちゃって。」
「あんまり期待しないで。」
おじさんは、自分の子供ぐらいの少年達をこのまま放っておけなかった。
「今日は、どうもありがとうございました。」
勇孝と雄也は、とても礼儀正しく素直な所があった。
「じゅあ、帰ったら妻に聞いてみるよ。」
「はい、お願いします。」
二人は、声を揃えて言った。
「真っ暗だから、気を付けて帰ってね。お父さんとお母さんが心配してるんじゃないかな。」
「はい、おじさんも奥さんが心配してるんじゃないかな。」
雄也は、おどけた口調で言った。
「はっはっは、それじゃ。また明日の夜六時にベンチで待ってるから。」
おじさんはそう言うと、温かい家族がいる家へ帰っていった。
「じゃあ、俺たちも帰るとするか。」
勇孝は家へ帰る途中、自転車を走らせながら星空を眺めた。彼は星を眺めるのが好きであった。日常の嫌なことや悩みを、ほんの一時だけ忘れられるからだ。
この星空を眺めている人は世界中にたくさんいて、世界中の人々が星を見つめることによって繋がっている。こんなに綺麗な星空が世界中に溢れているのに、どこかの国では多くの人が無駄な争いによって残酷に殺されている。
勇孝の頭の中で色々な想いが駆け巡り、星を見つめて切なくなった。
「じゃあ、また明日。」
「おう。」
二人は、交差点の近くのコンビニで別れた。
勇孝は、自転車をガレージにある紗季の車の隣に止めた。玄関からは明かりがもれている。彼が帰って来ると、愛犬のグリーフが尻尾を振りながら喜んでいた。
勇孝はグリーフを抱擁すると涙が込み上げてきて、大粒の涙が頬を伝いこぼれ落ちてしまった。


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