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八話


深い眠りから目覚め、ベッドから起きようとしたが、まだ昨日の精神的苦痛から抜け出せずにいた。朝日を浴びたが、どうも頭がボーっとして目が冴えない。
ベッドに横たえながら空を見上げると、空は淡いブルーで透き通っていた。彼の心境とは裏腹に、雲ひとつない空は爽やかで逆に心を重くした。
いつもなら雨や曇りの日であっても、朝を迎えると気持ちよく目覚める方であった。しかし、眠っていても昨日の事故が頭から離れなかったので、睡眠不足で頭がボーッとしていた。。
勇孝はテレビの電源を入れようとしたが、昨日はテレビを見ることもなく眠りに就いたので、主電源が入っていなかった。リモコンでテレビがつかないのなら、わざわざこの温もりのあるベッドから抜け出してまでテレビを見る必要もないと思い、しばらく布団の気持ちよさに満足してから一階のトイレへと降りていった。
トイレのドアをノックしたが、雅浩が入っていたので我慢するしかなかった。雅浩は、新聞を取りに行った後、すぐにトイレへ入る。約十分出てくることはない。それが毎朝の日課なので、勇孝はトイレへ入るのを諦めるしかなかったのだ。
仕方なく応接間へ行って、こたつに座りテレビを見た。まだ朝は肌寒い時もあり、こたつはしまわなかった。
「おはよう。勇孝、どうしたの。そんなに眠そうな顔して。」
昨日勇孝と、一度も会話を交わさなかった紗季が話しかけた。
「大丈夫、元気ないじゃないの。」
紗季は、昨晩勇孝にあたったのが後ろめたくて、ご機嫌をとるように明るい口調で言った。
「べつに。」
しかし勇孝は、そんな紗季の気持ちも知らずに、ぶっきらぼうに朝のあいさつを交わした。心ここにあらずで、あの事故のことで頭がいっぱいで、それどころではなかった。
紗季は家事が一段落したため、朝のニュースに見入っていた。
勇孝も見るとはなしに見てはいたが、テレビを見るというよりも、ラジオを聞く時のように耳を澄ましていた。
紗季の年代のおばさんが好むような芸能ニュースや、ワイドショー的なニュースが報道されていた。
勇孝も芸能ニュースには興味があり、学校でも話題になっている。しかし今日の彼は、芸能人が結婚や離婚をする話はどうでもよかったのだ。
紗季は、テレビにかじり付くように見ている。
「全くいいわね、芸能人は。すぐ離婚したりできて。」
紗季は、独り言のように言っていた。
しかし、いつの間にか雅浩がトイレから出て来ていたらしく、勇孝の目の前に黙って座っていた。


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