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九話


紗季は、悪気があって言ったわけではなかったが、雅浩は頭にきてしまい、朝から夫婦喧嘩が始まってしまった。
「お前は、何が不満なんだ、いったい。」
「何のことよ。」
「離婚できていいなっていったじゃないか。」
「何が。独り言よ。芸能人のことを言ってんのよ。つまらないことに突っかかんないでよ。」
紗季は、雅浩が何で怒っているのか分からないでいる。
「何がつまらないことだ。不満があるから離婚できていいなって言うんだろうが。」
雅浩は最近、何かにつけて紗季に文句を言っていた。二人は心が通じ合わず、ぎくしゃくしてしまっていた。
「ええ、あなたの言うとおりなのかもしれないわ。」
勇孝は、二人のやりとりを黙って聞いていた。なぜこの夫婦は仲良く出来ないのだろうと思い、隣近所に住む葉多野真奈美の家庭環境が羨ましくなった。勇孝は真奈美の両親が、楽しそうに散歩をしている姿を度々見たことがあった。
勇孝は、夫婦喧嘩を隣で聞いていたら、頭が痛くなってきた。うんざりしながらテレビに目をやると、子犬が虐待され殺されたというニュースが流れていた。この間も似たような事件があり、未成年が犯人で今回の事件も未成年が犯人ではないかと、テレビのコメンテーターが小学生でも考えるようなコメントを当前のような顔をして語っていた。
夫婦喧嘩が終わったと思ったら、二人の目線は勇孝に向けられた。
「あんたも、こんな馬鹿げたことしたら承知しないわよ。」
紗季は、まさか自分の子供がこんなことをするはずはないと思っていたが、話題を変える為に勇孝を利用した。
「俺がするわけねえだろ。俺にまで喧嘩をふっかけんなよ。」
勇孝は呆れて怒りも込み上げてこなかったが、憎しみを込めた眼差しで両親を鋭く睨みつけた。
しかし内心は、虐待をした人と子犬を轢いてしまった自分と、動物に怪我を負わせてしまったという事実には何の変わりもない。自分も警察に捕まって罪を償うべき人間ではないのだろうかと考え、何もかもが嫌になった。それと同時に、子犬に対して申し訳ないという気持ちがさらに強くなった。
勇孝は、この悩みを両親に打ち明けようと思っていたが、とてもそんな気にはならなくなってしまい、今となっては一人で苦しみを抱える問題ではないのだろうかと考え直していた。
勇孝は、ここに座っているのが苦痛に感じ、両親の近くに自分が存在している現状に吐き気がした。 勇孝は思い立ち、グリーフといつもより早めに散歩に出かけることにした。


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